私は発達障害の療育に関わっています。
療育では運動療法を担当しています。
発達障害の運動療法で「筋緊張」や「低緊張」など耳にすることが多いと思います。
今回は筋緊張と筋肉や神経の関連、よくある動作や改善方法などをお伝えします。
Contents
筋緊張とは
筋肉は常に一定の力が入っている状態です。
どれだけ意識して力を抜いていても、完全に抜けることなく一定の力が入っています。
意識しなくてもこの機能は働いています。
それが筋緊張というものです。
筋緊張は、姿勢保持に関与しています。
姿勢保持をコントロールする、「姿勢制御」というキーワードが重要です。
低緊張
緊張度合いが低いこと。
他動的に関節を動かしてみて、抵抗感が少ない状態。
高緊張
緊張度合いが高いこと。
他動的に関節を動かしてみて、抵抗感が強い状態。
変に引っかかったり、ガクガクする場合など。
筋緊張異常
私が関わるお子さんの、ほとんどの例で筋緊張の異常を認めます。
特に低緊張が多いです。次いで高緊張もちらほら。
筋緊張が通常の状態であることは稀です。(あくまで私が関わっている中で、ですが)
基本は低緊張
高緊張の状態である場合であっても、全般に筋緊張は低いです。
他動的に動かしても抵抗感が少なく、関節は正常範囲以上に曲げ伸ばし出来る場合が多いです。柔らかい、柔らかすぎるという状態です。
所々に高緊張
基本は低緊張ですが、特定の部位に高緊張(=筋緊張亢進)の状態を認める場合があります。
アキレス腱反射や膝蓋腱反射が亢進している場合が多いです。ハムストリングスの反射が亢進している場合もあります。
この筋緊張亢進状態には様々な要因が考えられますが、姿勢保持をするための代償行為であると考えています。
なぜ低緊張の状態になるのか
この記事にも少し書いています。
http://hattatuot.com/2017/03/25/特徴1/
発達障害や知的障害、ダウン症、プラダーウィリー症候群など、様々な障害がありますが、共通して見られる症状に『低緊張』があります。
もともと筋肉や靭帯などの組織的に緩い場合もあるでしょう。しかしそれだけで説明がつかない程に低緊張の傾向が多いです。
なぜ低緊張になるのでしょう。
なかなか紐解かれてない分野で、調べてみてもなかなかヒットしません。
『低緊張という特徴がある』とは書かれていますが、その原因は触れられていないです。
調べてみたところ、基底核や視床、扁桃体の未発達など、何らかの関連がありそうなことが予想されましたので、少しご紹介します。
視床
視床は感覚の中継地点としての役割を持っています。さらに感覚と運動の統合に関わっている、という話もあります。
基底核
基底核は色々な感覚の通り道。運動の調整や筋緊張の調整をする。眼球運動の制御も行われる。記憶との連動や運動パターンとの連携も行われる。
発達障害のお子さんの行動や動作面での特徴を説明される時に、『感覚の統合不全』という状態だと表現されることが多いです。様々な感覚を上手く処理出来ないということです。
感覚を上手く統合できないということは、上手く出力できないということ。動作をしたり姿勢保持するためには、様々な感覚が入力されてから、それらを統合して出力に繋げていきます。そこに何らかの問題がある。
その裏にはこのような複雑な脳の動きがありそうです。早く研究が進むことを望みます。
低緊張だとどんな動きになるのか
疲れやすい
筋緊張が低いので、動くための準備が出来にくい状態です。そのため動こうとするとエネルギーが必要です。エイヤっ!と力を入れないと動けません。だから疲れやすいという特徴があります。
よく寝ころぶ傾向にあるお子さんや、「疲れたー」というお子さんは、低緊張である場合が多いです。
(もしくは重力不安や感覚過敏なども可能性として上げられますが。)
姿勢が悪い
姿勢を保持するための筋活動が弱いことも原因です。
座っていても崩れてくる、もたれかかる。机に伏せる。立っている姿勢もシャキっとせずフラフラしている。ダラダラしているイメージですね。
適切な出力が出せないため姿勢を保つことが困難となる、と考えられます。もちろん、筋力そのものが弱いことも少なからず見られます。
立位では、足からの影響もありますが、背中を反らせて骨盤と体幹を安定させようと過剰な努力をします。
過剰な努力で高緊張になる
低緊張なために…
⇒筋肉の働きが不十分だから、姿勢保持に十分な力を発揮できない。
⇒でも何とか姿勢保持をしなくてはならないから、特定の筋肉の働きを強めて姿勢保持をしよう。
例えばこんな感じで姿勢制御しています。
さらに、扁平足や膝伸展ロッキングを使って姿勢保持してしまうため、より偏った筋肉の使い方になってしまいます。
足部の話がこちら。
膝の話がこちら。
http://hattatuot.com/2017/03/26/特徴3/
偏った姿勢保持では、特定動作の過剰努力による筋緊張の亢進状態が作られます。
運動した後や自転車を長距離漕いだ後などに、筋肉痛ではなく、筋肉に力が入った状態を感じたことがあると思います。
過剰な努力は高緊張を作る、と言えます。
バランスが悪い
極端に転びやすいです。筋出力も弱く、適切なバランス反応も弱いため、すぐに転んでしまいます。
例えば滑り台を駆け下りる、段差からジャンプして降りる、といった場合、足や体幹の力で支えることが苦手なため止まれません。それをわざと転ぶことでブレーキとしている場合もあります。
バタバタ動く
適切な力の配分が出来ていないため、滑らかに動けません。1つの関節を固定させて次の関節を動かす、体幹→肩、肩→肘、肘→手首、手首→手指というように、より末梢のコントロールは中枢側が固定されていなければ出来ません。
一生懸命に動きたい気持ちは伝わってきますが、それでも上手く動けていない。すごく不器用に見えます。
モジモジ・ウロウロする
多動の要素ですが、これにも低緊張が絡んでいることがあります。
低緊張で姿勢を保つ筋肉に上手く力を入れられないため、モジモジと動いて姿勢を保とうとします。
ウロウロと動き回ることもあります。ゆっくり歩けずに走る子もいます。
改善方法は?
低緊張とは、その子がもともと持っている特徴です。発達障害を持つ小学生や中学生でも、足関節が柔らかい子やアキレス腱が硬い子がいます。成長して筋肉も大きくなり、幼児期程の特徴が薄れたとしてもある程度残るのではないかと思います。
しかし幼児期に適切なアプローチをすることで、筋力や動き方は少なからず修正できます。動き方が変われば使っている筋肉が変わりますので、過剰な努力を減らしたり、不器用さを軽減できるのではないかと考えています。
スキャモンの発達曲線には、20才で100%だとした場合、5才で約80%、6才で約90%の神経系が発達する、と言われています。
赤ちゃんの頃から急激に成長しますよね。耳で聞こえた音の方向に目を向け顔を向け、首が座り、寝返りをするようになり、うつ伏せから、ずり這い、はいはい、つかまり立ち、…と、成長していきます。
子どもは日々成長ですので、出来るだけ早い段階で関わることが出来れば、より良い効果が期待できます。
早期発見、早期療育ですね。
運動療法は、別記事で解説していきます。
コメント
大人の発達障害、診断済みの30代女性です。筋緊張異常などに関する内容が、ほぼ当てはまっており、立っていても座っていても、何か作業を行うときも、適した姿勢に変えることがスムーズでなく、長時間保つこともできません。
また、一日を通して体を起こしておくことが困難で、日に何度か、しばらく横になって休憩をとる必要があります。
動くたびに「エイヤ!」とエネルギーが必要で、少し動くだけでも疲れやすく、日常生活にも支障があります。
感覚統合療法など、受けられる施設がないかと調べましたが、大人が受けられるところはないようです。
大人でも、同じように困っている方は他にもいると思うのですが、どのように対処されているのでしょうか?
私がまだ辿り着いていないだけで、大人が訓練を受けられる施設はどこかにあるのでしょうか?
私が調べた中でも大人の発達障害に対する運動療法を行っている事業所はありませんでした。しかし必ずしも専門家による療法を受けなければならないとは思いません。
自分で出来る対策があります。それは身体を動かすことです。
ジョギング、筋トレ、体幹トレーニング、この3つを始めてみてください。中枢側を鍛えていくと動きが安定するので、疲れにくくなることが期待できます。自宅でもできますし、ジムに通っても良いでしょう。体力をつけましょう。
椅子に座っての作業なら、クッションを考えてみましょう。バランスディスクや骨盤バランスクッションで検索すると出てきます、円盤型のクッションです。非常に不安定な座面に座ることで筋活動を高めます。この上に座って骨盤を前に起こすと体幹が真っ直ぐに伸びてくるので姿勢保持しやすいです。
色々な対処法がありますので、試しながら自分に合うやり方を探してみてください。
[…] 低緊張についての記事 […]
東京都渋谷区に住む孫(2歳9か月)が低緊張で、まだ歩けません。
なんとか自分で立ち上がっても、ふらふらしてすぐにダウンします。
運動療法を施してくださる良い施設が近くにあれば教えてください。
母親がすでに調べて通所しているかもしれませんが、祖母としても
何か助力できればと思いましてメールさせていただきました。
よろしくお願いします。
ご相談ありがとうございます。お返事が遅くなり申し訳ありません。
お孫さんのことで少しでもしてあげられことはないかと、お調べされているのですね。
未就学のお子さんでしたら、まずは住民票のある自治体の保健センターに相談してみてはいかがでしょうか。そこで面接や2次健診を利用できますし、必要に応じて療育施設や医療機関への紹介等、その子に合った適切な対応をしてもらえるはずです。すでに対応済みかも知れませんが、お子さんにとって最も間違いが無い方法だと思います。